流星ワゴン by 重松 清 ~打ち解けていく3つの父子の物語 【書評】

書評

たまたまTUTAYAに行ったときに手に取った本に、この「流星ワゴン」がありまして読んでみることにしました。

 

見てはいなかったのですけれど、たしかドラマ化されていたなぁとおぼろげながら記憶していて、俳優の西島秀俊さんが主演していたような記憶だけがあり、ストーリーは全く知りませんでした。

 

「本の雑誌」年間ベスト1に輝いた本らしいですね。

 

本の雑誌というのがあることも実は知りませんでした。(ダメ?(^^;))

 

そんな私がこの本を今読んだのは、ある意味、私にとって絶妙のタイミングだと感じています。

 

「流星ワゴン」のあらすじ

今夜、死んでしまいたい。

もしもあなたがそう思っているなら、あなたの住んでいる街の、最終電車が出たあとの駅前にたたずんでみるといい。暗がりのなかに、赤ワインのような色をした古い型のオデッセイが停まっているのを見つけたら、しばらく待っていてほしい。

 

壊れた家庭を持ち、無職の主人公 永田一雄は、末期がんに冒された父親を見舞いに行った帰り、街に着いた最終電車を降りたところ、駅のロータリーに1台のオデッセイを見つけた。乗っているのは、橋本さんと小学2年生の息子 健太くん。2人に促され車にのった一雄は彼らと夜のドライブに出かけることになった。

 

話を聞いていると橋本さん親子は5年前の交通事故で亡くなっている。「死んじゃってもいいかなあ、もう」と思って駅にいたところに2人と出会っていたため、自分が死んでいるのだろうか?と半信半疑のまま、なぜか家庭の内情をすべて知っている橋本さん親子とともに、自分に関連する過去へ向かう旅に出かけることになる。

 

その旅の一つ目、妻 美代子の浮気現場に向かったところ、突如現れたのは一雄の父 永田忠雄。彼の姿は一雄と同じ38才の若い姿だった・・・・。

 

このときから一雄と忠雄は、「カズ」「チュウさん」と呼び合う朋輩(ほうばい)となって、共に一雄の大切な過去、一雄の人生のターニングポイントへ向かうことになった。

 

失くしたはずの未来を取り戻せばいい。たとえどんな未来であろうと

 

一雄は過去へ戻り、果たしてやり直しができるのだろうか?それとも・・・・

 

 

 

・・・・という感じのストーリーです。

 

「主人公 一雄と父 忠雄」、「一雄と息子の広樹」、そして「橋本さん親子」の3つの父子関係が織りなす物語となっており軸となって話が進んでいきます。

 

「流星ワゴン」を読んで見て思ったこと(感想)

今、私の父も末期がんに冒され療養しています。その状況がたまたま手に取ったこの本と同様に主人公の父が末期がんに冒されているところが自分とダブって見えました。

 

さきほど「3つの父子関係」が物語の軸であるということを書いていますが、それに私自身を含めて4つの父子関係を感じながら読んでいたのです。

 

父親と子供の関係って、放っておくとだんだん薄くなるような気がします。

 

たとえば母親だったら、子供が赤ちゃんのときに自分のおっぱいをあげる、とか、そもそも自分のお腹の中から子供を産むわけですから、それはそれは密接な関係性が最初からあるんですけれど、父親と子供の関係は、

 

どうふれあったか

 

でしか関係が結べないわけです。父と子の関係性が深くなるのか浅くなるのかは、

 

父と子がどう接していったのか?

どんな会話をしたのか?

 

によってしか成り立たないのです。ですから、どうしても母子のように元々ある強い結びつきがあるわけではありません。作っていくしかないのです。一昔前であれば、父がいなくても、父のいる席は絶対に子供たちに座らせない、だとかあったと思いますけれど、今はそういうことはありませんので・・・。

 

私は子供のとき、母の「父への悪口」の影響で、あまり父が好きではありませんでした。母の理想の男性像ではないことから、逆に理想の父親像を「完璧な男性」としてとらえ、そこにいたらない父を悪く思っていたのです。

 

ですが、この年になって、大人の男性である自分を振り返ると、まったく完璧でもなんでもありません。失敗もするし、くよくよするし、男らしくないところもたくさんあることがわかります。父も1人の人間だとわかったとき、それが世間や常識ではダメなところがあったとしても、

 

紛れもなく私のたったひとりの父だと

1人の人間だったのだと

 

恥ずかしながらようやくこの歳で理解できたのです。

 

私も遅くはありましたが、死に向かう父ときちんと向き合い、正直なあたたかい会話ができるようになりました。そしてすぐに父の死と向き合うことになります。

 

そういったことを体験しつつ、この「流星ワゴン」を読みました。主人公も父が死ぬ直前になって、チュウさんの素直な息子への愛情を知ることで、またチュウさんが1人の人間であることを理解することで打ち解けていきます。

 

この物語は最終的に、主人公が最初に橋本さん親子に出会った場面に戻ります。その間、自分の重要な過去に対してどのように向き合い自分のわだかまりを解放していくのか、そして本来の時間に戻った一雄がどのようになっていくのかが見所だと思います。

 

もしあなたが「父親」ならば、きっと味わい深い物語となることでしょう。よろしければお手にとって読んでみてはいかがでしょうか。

コメント